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冷静と情熱のあいだ (Blu)/ 辻仁成


冷静と情熱のあいだ(Blu) (角川文庫) [ 辻仁成 ]

今回レビューするのは、辻仁成 著  『冷静と情熱のあいだ(Blu)』 です。むかし映画にもなった有名な小説ですね。

ひとこと感想&マイ評価

ナルシスト・クズ野郎の後悔と再生の物語

★★★☆☆(3星 / 5星中):ふつうにおススメ

概要

イタリアで絵画の修復士をしている阿形順正(あがた・じゅんせい)は、かつて愛した女性、あおいのことを忘れられずに生きていた。

イタリアで知り合った恋人、芽依(めい)との関係を重ねつつも、いまだ過去の恋愛に縛られたままの順正の心。

過去と現在の想いに悩み、大人になりきれない心情を丁寧に描いた愛と再生の物語。

感想

最初にひとことで感想を言いましょう。

これはね、

………。

………。

………。

過去に縛られたクズ男の物語 です。

正直言って、読み進めながら「…このクズ野郎が!」そう思わずにはいられない、そんな恋愛小説でした。

まあ、恋愛小説なんて何かしらの波乱がないと盛り上がりませんからな。ただ、男女がイチャコラしてるだけではドラマがないということなのでしょうが…。

しかし、この男主人公、クズすぎでしょ…。

あれだけ献身的な芽依(=今カノ)と散々肉体関係をむすんでおきながら、心ではずっと昔の女を追いかけていてさ…。あげくの果てには、ズルズルと関係をひきずったまま自然消滅を狙うという…。

うう、芽依ちゃんが可哀想… (´;ω;`)。

と最初から貶しモードで書いてしまいましたが、ぼくはこの物語、嫌いではないですよ。

まるで情景が浮かび上がってくるような文章の美しさとか、端正な筆致で語られる心情とか。

だけどね、小説に感情移入すればするほど、男主人公のクズさに腹が立つというか…。

…まあ、そんなお話でしたよ(投げやり)。

ところで、ご存じの方も多いかと思いますが、この「冷静と情熱のあいだ」は、男主人公の視点で書かれた Blu (=青パート)と、女主人公の視点で書かれた Rosso (=赤パート)によって構成されています。

青パートは辻仁成さん、赤パートは江國香織さんが書いているため、それぞれ異なった趣の小説となっていて、その違いもまた面白いですね。

青パートは男性視点であるせいか、いろいろな情景描写が細かくて、なんというか写実的?な感じ。文章を通して写真をみているような感じなんですよね。赤パートは逆に、情緒的な感じで場面が「ふわっ」としているように感じたかな。

濡れ場に関する描写も同じような感じです。青はしっかり、赤はふわっと。もう、青の濡れ場描写は、「官能小説かっ!?」っていうほどでした、個人的に。こりゃあ、通勤電車では読めないね…。

あと、青パートではやたら固有名詞が登場します。「ヴェッキオ橋」とか「シニョーリア広場」とか。

逆に赤パートは固有名詞が少なくて、「近くの橋」とか「広場」としか書かれていないことが多いです。

こういったところにも、男性と女性の感性の違いがあるのかなーと思いました。

男女別々の作家さんが一つの物語をつくることで、いろいろ読み手としても感じることができ、なかなか挑戦的な企画で面白かったです。

また誰か、同じような企画で本を書いてくれないかなあ。

書籍 Links

それでは、書籍マイスター(※自称)のぼくが、みなさまにオススメの一冊を紹介する「書籍Links」のコーナー。

今回は、『冷静と情熱のあいだ(Blu)』で感じた 3 つのキーワードに関連する書籍をご紹介します!

『冷静と情熱のあいだ(Blu)』の My キーワード Best 3 がこちら (*´ω`*)

① クズ男の恋愛

② 芸術の香り

③ まるで官能小説

本作の主人公、阿形順正のような 「① クズ男の恋愛」が気になった方へのオススメですが…

川上弘美 著 『ニシノユキヒコの恋と冒険』 はいかがでしょうか?


ニシノユキヒコの恋と冒険 (新潮文庫) [ 川上弘美 ]

『ニシノユキヒコの恋と冒険』は、真実の愛をもとめて 10 人の女性と情を交わしたニシノユキヒコの生き様を追う、短編集となっています。川上弘美さん独特の柔らかい語り口で進む、ちょっと不思議で切ない物語です。

次に、本作のいろいろな場面で登場する「② 芸術の香り」に魅了されたあなた、そんなあなたには…

中野京子 著 『怖い絵 死と乙女篇』 がおススメです。


怖い絵(死と乙女篇) (角川文庫) [ 中野京子(ドイツ文学) ]

この本は、海外の名画を題材とし、その絵画が描かれた背景について掘り下げることで、そこに潜む心理を読み解くというノンフィクション・ミステリーです。本の表紙にもなっている、レーピン作 『皇女ソフィア』 をはじめとし、22 の名画について解説した読み応えのある一冊となっています。

最後に、「③ まるで官能小説」のような描写に興味のあるあなた、そんなあなたには…

有名どころで申し訳ないですが、村上春樹 著 『ノルウェイの森』 などいかがでしょうか?


ノルウェイの森【電子書籍】[ 村上春樹 ]

『ノルウェイの森』は、ワタナベ君こと「僕」が、サナトリウム(療養所)を舞台として「直子」やその他の人々と交流していく青春&純愛小説です。超有名作家である村上春樹さんの初期の作品であり、いまとは少し違った文体であると感じますが、登場人物である若者たちの繊細な心を描いた独特の文章は秀逸で、流石の完成度です。特に、その比喩表現の素晴らしさは鳥肌モノで、まだ読んでいない方には絶対に一読の価値ありと紹介できる名作です。

あと、ちょこちょこと濡れ場の描写が入ってきますが、わりと生々しく書いてるなあって印象があったので、「③ まるで官能小説」のキーワードから連想しました。

旅 Links

次は、小説の舞台となった場所を現実に見て回りたいと考えているあなたに捧げるコーナー、旅 Links です。

ここでは、『冷静と情熱のあいだ(Blu)』作中に登場する場所についてご紹介します。

『冷静と情熱のあいだ(Blu)』の舞台は大きく 2 つに分けることができます。

まず、物語の主要な舞台であるイタリアのフィレンツェ

作中には、

「ドゥオモ」

「ヴェッキオ橋」

「アルノ川」

「グイッチャルディーニ通り」

「パラッツォ・ピッティ」

などの地名・建築物が登場します。詳しくは「Book Travel: 冷静と情熱のあいだ(イタリア編)」にまとめてありますので、興味のある方はご覧ください。

そして、もうひとつの舞台は 東京。ここは、順正が学生時代にあおいと愛を交わした場所であり、傷心した順正がもどってきた街でもあります。

作中では、

「羽根木公園」

「梅ヶ丘」

「成城大学」

「千駄ヶ谷」

などの名前が登場しています。詳しくは「Book Travel: 冷静と情熱のあいだ(東京編)」にまとめてありますので、そちらも併せてどうぞ(・ω・)ノ

アイテム Links

最後は、小説に登場した食品や雑貨に興味があるあなたへお贈りする、アイテム Links のコーナー。

このコーナーも記事ボリューム削減のため、Book Items の記事に詳しい情報をまとめています。気になるアイテムがあったら、ぜひ詳しい記事も御覧くださいね。

『冷静と情熱のあいだ(Blu)』では、地名はよく登場しているのですが、アイテムとして紹介できそうな雑貨に関する記述はあまり多くありません。しいて言うなら、いくつかの料理の名前と美術品が登場するくらいです。

作中に登場した料理は、

「リボッリータ」

「しろいんげんのパスタ」

「子牛の胃袋のトマト煮込み」

「パニーノ」

です。パニーノ以外は、あまり日本では馴染みのない名前です。

リボッリータ、しろいんげんのパスタ、子牛の胃袋のトマト煮込みは、煮え切らない順正に腹をたてた芽依がフィレンツェのレストランでやけ食いするシーンで登場する料理ですね(小説版 56 ページ)。

パニーノは、順正のお気に入りの習慣、「だれもいない朝の修復工房でパニーニを食べてカプチーノで流し込む」というシーンで出てきます。

それぞれどんな料理なのかは、コチラの記事をごらんください。

一方、作中には多くの美術品が登場します。しかし、その多くは「ただ登場するだけ」で、あまりストーリーに絡んできません。多少なりともストーリーに絡んでいるのは、次の 2 つでしょうか。

ラファエッロ作 「大公の聖母子」

アンジェリコ作「受胎告知」

「大公の聖母子」は、順正のお気に入りとして物語冒頭に登場し、その監視員の移り変わりから時の流れを実感するシーンへとつながっていきます(小説版 47 ページ)。

「受胎告知」は、順正の味方であり、良き理解者である祖父「阿形清治」がイタリアに訪ねてきて、芽依、順正と三人で美術館巡りをするシーンで登場します(小説版 116 ページ)。ここはイタリアで傷心した順正が日本へ帰る決意を固める、という物語の重要な転機となるシーンです。

終わりに&ネタバレ感想

『冷静と情熱のあいだ(Blu)』は、忘れらない女性、あおいとの約束「あおいの 30 歳の誕生日にフィレンツェのドゥオモのクーポラで会う」をストーリーとの主軸に置いています。

果たして、順正はクーポラに登る決意を固めるのか?

あおいはクーポラへやって来るのか?

二人の人生を追いながら、そこにヤキモキするのがストーリーの肝です。

結論からいうと、二人は無事に再開することができます。そしてその後、お互いの気持を確かめるかのように体を重ねますが、そこで二人はお互いが別の人生を歩んできたことを実感として感じます。

愛し合ったあと、あおいは、順正のいない「いまの生活」へと帰ることを決意しました。

一方、順正は、あおいの「これまで」に嫉妬しつつも、「これからの生活」を築いていきたいという自分の気持と向き合い、たとえ傷つくとしてもあおいを追いかけたいと決意しました。

そして、順正は、ミラノへと帰るため駅へと消えたあおいを追いかけて、ミラノ行きの特急「ユーロスター」へと飛び乗るのです

…というところで、物語は終わります。

いわゆる、「物語の結末は読者に委ねますね」方式。

………。

………。

………。

ああ!むっちゃモヤモヤする!!

ぼくは、この「委ねます」方式、あんまり好きじゃないんですよね。ちゃんと責任持って、物語を完結させろよっ!ていう気持ち。ただまあ、クズ男で過去ばっかり見ていた順正くんが、未来のために走り出したってことで割りと爽やかに終わっているので、後味は良かったです。

ということで、なんか微妙にドロドロしてる恋愛小説でしたが、最後は爽やかに終わったので意外と悪くなかったです。

しかし、万が一にも、あおいに拒絶されちゃったら、順正くんは自殺しそうだね… (´・ω・`)

やっぱり男のほうが未練たらしいのかな…。